監修 名古屋前立腺温熱・免疫治療研究所所長
    名古屋市立大学医学部 大学院臨床教授   上田浩介

高齢化化社会の到来とともに、急速に増えつづける前立腺肥大症


「オシツコが出に<い」は要注意
 男性トイレが混んでいるとき、老人の後ろは避けて、若者の後ろに並んだ方がいいと言われます。男性の場合は歳をとつてくると、オシツコの出がだんだん悪くなり、排尿に時間がかかるケースが多いからです。
 若いころと比べ少しばかりオシツコの勢いが弱くても、まだ気持ちよくオシツコが出てくれれば、気にすることはないかもしれません。しかしながら、便器の前に立ってもなかなか出なくて、オシツコが出始まるまでに時間がかかる、オシツコが出始めても出方が細く、終わるまで時間が長い、となると注意信号です。
 これはオシツコの通り道である尿道が圧迫されて、狭くなっているために起こる症状で、多くの場合「前立腺肥大症」であると考えられます。
 いまや高齢男性の代表的な病気 前立腺肥大症は一般的に50歳代の中ごろから著しく増加し、70歳代に到達するころには2人に1人がかかっているともいわれ、男性の老人病の中で最もポピュラーなものの一つです。
 とりわけ高齢化社会の到来によりその患者数は増えつづけ、いまや日本での潜在的患者数は約200万人と推定されています。しかも、病気にかかる年代が次第に低くなってきているともいわれています。
 放っておけば勝胱や腎臓に障害を起こしかねない前立腺肥大症。快適な老年期を過ごし、長生きするためにも、たかがオシツコの出方ぐらいとは思わないことです。
クルミほどの小さな前立腺は、男性だけについている臓器
 膀胱のすぐ下で尿道を取りま< 前立腺は人間の臓器の中でも、なじみの薄いものの一つでしょう。10年ほど前ですら、日本では専門家を除いて知っている人は少なく、関心の低いものでした。ただ、近年、前立腺の病気、特に前立腺肥大症が多く見られるようになり、その存在はかなり知られるようになってきました。とはいえ、名前を問いたことはあるが、どこにあるのかとなると首をかしげてしまう、そんな人がまだまだ多いかもしれません。
 改めて言うまでもないことでしょうが、前立腺は女性にはありません。
男性固有の臓器です。その位置は下腹の奥の方、つまり、直腸の前、勝胱のすぐ下で、尿道をぐるっと取り囲んでいます。
 大きさは、年齢によって異なりますが、成人ではだいたいクルミ大といったところ。ハート形をしていて、重さはふつう15〜20グラムほどしかありません。
 外線と内腺に分かれている前立腺には大きく分けて、外腺と内腺があります。この二つは、ちょうどミカンの皮と実の関係に似ています(上の断面図参照)。皮が外腺、実が内腺というわけです。
 内腺は中心にある尿道を取りまいていて、ここが肥大すると尿道を圧迫し、尿が出にくくなります。これが前立腺肥大症です。
一方、前立腺で起きるもう一つの重大な病気、前立腺ガンは外腺から発生します。
精液の一部となる前立腺液をつくり、また、オシツコの流れを調節する前立腺
精子を活性化させる前立腺液
 前立腺の働きについては、まだ解明されていない部分が少なくありません。それでも男性にとつては非常に大切な臓器であり、いろいろと重要な役割をはたしていることが分かっています。
 その一つが、精液の一部となる前立腺液の分泌です。
 前立腺が取り囲んでいる尿道は、尿の通り道であるとともに、精液の通り道でもあります。葦丸 (コウガン)で生まれた精子は、副皐丸に蓄えられ、その後、精のう腺から出される精のう液や前立腺液などと一緒に精液となって、尿道を通っていきます。前立腺液が精液の中で占める割合は五分の一に過ぎませんが、その役割は重大です。精子の運動能力や生命力を高めるとともに、その中に含まれる亜鉛には殺菌作用があり、精子を守っているとされています。
膀胱の出口を開閉する役目
 
もう一つ、前立腺はオシツコを出す働きに一役買っています。
 勝胱に一定量のオシツコがたまり尿意を催しても、トイレに立つまで我慢できるのは、前立腺の少し下にある外尿道括約筋という筋肉の働きによるものです。前にも述べたように前立腺は膀胱のすぐ下にあり、勝胱の出口を取りかこんでいます。そして、前立腺は外尿道括約筋とともにゆるんだり締まったりします。こうして、オシツコが出るときは尿道が開き、終われば尿道が閉まるという仕組みができあがっているのです。
五十代を迎えると王Hび大きく「な肌り始め、歳とともに肥大していく前立腺
 個人差がある前立腺の肥大
 少年期の前立腺は、ふつう10グラム以下で、思春期のころになるとどんどんと重量が増え、25歳前後にピークを迎えます。そして45歳ごろまでほぼ同じ大きさを維持するといわれています。
 ところが、50歳代にさしかかるころから、前立腺はまた大きくなってきます。ただし、これ自体は病気というわけではありません。老化現象の一つであり、健康な人でも50歳を過ぎると、前立腺は年齢とともに少しずつ大きくなっていくものな
のです。
 問題は肥大の度合いです。前立腺の肥大といっても個人差があり、何グラム以上は肥大症である、といちがいに言うことはできません。まず、オシツコの出が邪魔されるようになったら「前立腺肥大症」を疑う必要があるでしょう。
 性ホルモンと関係する肥大症
 前立腺肥大症の原因については、今のところ解明されていません。ただ、前立腺がふたたび大きくなり始める五十歳ごろというのは、男性ホルモンの働きが低下する時期であり、また一方で、去勢された男性には前立腺肥大症が起こらないことなどから、男性ホルモンと女性ホルモンのバランスの変化が、原因の背景にあるのではないかと言われています。
 とりわけ、前立腺に流れ込むホルモンのうち、テストステロンという男性ホルモンが肥大症に密接に関係していることが知られています。
頻尿、排尿困難から、やがては失禁へ。病気が進行すれば重大な障害も
 最初はオシツコが近<なる
 前立腺肥大症の症状は、次の3期に分けられ、進行していきます。
▼第一期……前立腺が肥大し始めた時期です。膀胱・尿道が刺激され、下腹部に不快感を感じたり、トイレが近くなります。特に夜中に何度も起きなければならなくなるのが特徴です。また、オシツコがすぐ出てこなかったり、出終わるまでに時間がかかるようになります。
▼第二期……ますますトイレは近くなり、オシツコの出もいっそう悪くなってきます。また、オシツコが出きらなくて、残っている感じ (残尿感)が出るようになります。さらにオシツコがもれそうな切迫感におそわれ、トイレに間に合わず、ちびってしまうこともあります。
▼第三期……症状はさらに悪化し、いくらがんばってオシツコをしようとしても、勝胱に多量のオシツコが残ってしまい、次第にだらだらと漏らすようになります。この状態が長く続くと腎臓の働きまで悪くなり、腎不全にいたるケースもあります。
 早めに専門医の診察をどんな病気でもそうですが、早期治療が大切です。オシツコの出がおかしくても、歳だから気にすることはない、あるいは人に話すのは恥ずかしいからと放っておくと、症状は重くなり、それだけつらい思いをすることになります。どうもオシツコが近くなった、出にくいと感じたら、早めに泌尿器科のお医者さんに相談した方がいいでしょう。
初期ならば薬物で十分効果がみられ、症状が進行すれば内視鏡による手術が主流
 確実に診断がつく検査方法
 病院で行われる最も簡単な前立腺肥大症の診断法は、肛門から指を入れて前立腺を触診し、大きさを確認する直腸診です。直腸診では同時にガンかどうかも判断できます。また、排尿時間や排尿量をコンピュータで測定する検査も行われます。さらに、超音波を使った検査であれば前立腺が画像に写し出され、より確実に診断がつきます。このほか、尿道・膜胱をレントゲン撮影したり、内視鏡で観察したりするなど、さまざまな検査法が実施されています。
 薬から手術まで多彩な治療法
一方、治療法もいろいろ開発されていて、病状や患者の状態などに合わせて選ばれることになります。
▼薬物療法……一般的に症状が軽い人に対しては薬が使われます。最近注目を集めている一つがα1(アルファーワン)・ブロッカーという作用をもつ薬で、尿道をしめつける筋肉の緊張をゆるめ、オシツコを出やすくします。また、植物エキスや漢方薬、アミノ酸製剤などは、即効性はないが長期にわたり安心して服用できるところから、よく使われます。
▼内視鏡手術……尿道から内視鏡をつけた電気メスを挿入し、テレビモニターを見ながら前立腺を削り取っていきます。患者への負担が少なく、確実に切除できることから、いま手術では主流となっている方法です。
 この他、前立腺を温めて肥大を小さくする温熱療法や、器具を使って尿道を広げる治療などがあります。

前立腺肥大症

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