漢 方 薬 は な ぜ 効 く の か

昭和薬科大学 病態科学教室 田代眞一教授

 

【多様な機序のある漢方薬の作用】

 漢方薬は、毒にも薬にもならないような扱いを受けることが少なくなかった。単一の化合物を大量に投与する新薬に慣れた目には、漢方薬は効かないように見えるのだろう。しかし、新薬の大半は、昔から治療に用いられてきた生薬から有効成分を単離したものか、その誘導体である。従って、生薬や漢方薬を、効かないと扱うことは適切でない。事実、臨床で治験を組んだり、薬剤疫学的な調査をしたりすると、効いていることは幾らでも証明できる。臨床的なエビデンスの上に成り立ってきた医学であり医療だから、調べさえすれば有効性は明らかになることが多い。

 ただ、基礎的なエビデンスがまだまだ不足している。漢方薬には幾つもの成分が含まれており、その中には互いに拮抗するものも多い。また、大半の漢方薬は経口投与されるが、消化管で変化を受ける成分も多く、漢方薬中の成分がそのまま作用点に届いているとは考えがたい。現代科学は大きく進歩したように見えるが、こうした複雑な漢方薬を解析できる適切な手法を持っておらず、まだ十分解析できていないのが現状である。漢方の薬理学は、非科学では断じてないが、未科学の点も多く、それだけに今、急に進んでいる領域でもある。

 漢方薬の効き方には、幾つかの様式がある。配糖体のように、消化管で代謝を受けてから吸収され、作用するもの、アルカロイドのようにそのまま吸収されて効くもの、

製油成分や苦味成分のように、鼻や舌を刺激し、神経を介して効くもの、多糖類のように、消化管の免疫などを介して効くと思われるもの、その他、腸内環境を変えることで作用を出すもの、などなど、多様な作用機序が存在する。もちろん、多成分系の薬であるので、こうした機序が複雑に絡み合っている。

 

【配糖体は、腸内菌の助けを要するプロドラッグ】

 植物中の成分には、配糖体と呼ばれる糖の付いた化合物が多い。表1に示したように、主な生薬の主な成分の多くが配糖体である、こうした配糖体は、糖が付いているために水溶性が高く、燐脂質より成る細胞膜を通ることができず、吸収されない。ところが、腸内には100兆もの菌が棲み、活発なエネルギー代謝と増殖を営んでいる。

こうした菌の中に配糖体を水解できるものがおれば、糖を切り、エネルギー源として利用する。一方、当をはずされ、脂溶性の高まったアグリコン(aglycon、糖を除いた部分)が、吸収されて作用を表すのである。資化菌がいなければ、その化合物は効かなくなる。

 実例を示そう。大黄やセンナの瀉下成分は、センノシド(sennoside)だとされてきた。しかし、センノシドを静脈注射しても、下痢は生じない。プロドラッグなのである。腸内で、ある種のビフィズス菌などによって、β結合しているブドウ糖が外されてセニジン(senndine)となり、更に半分に切られてレインアンスロン(rheianthrone)となって吸収され、作用する。志願者から採便し、センノシドと共に嫌気培養し、一定時間毎にその代謝を追ってみた。一方で、本人にプルゼニド(センノシド製剤)を与え、翌日に下痢を生じたかどうかを確認した。その結果、効果にかかわりなく2番目の還元反応は全員の便に認められた。一方、効果の出た人では糖を外す活性が認められたのに対し、無効の人の大半がその活性を持たなかった。活性があるのに無効だった人は、何れも普段からセンナなどを常用している人で、常にセンノシドが供給されているため資化菌やその代謝酵素は誘導されているものの、連用のためにレインアンスロンへの耐性を生じ、常用量では効かなくなっていることが判明した。このように、薬効の発現には腸内菌叢は極めて大きな役割を果たしているのである。

 菌叢の重要性が解れば、より有効な使い方も考案できる。芍薬甘草湯は、芍薬と甘草の2味からなる、単純で切れ味の鋭い薬である。筋肉の攣縮に伴う痛みに著効を示す。病院に勤務していた頃、看護婦の月経痛に応用してみたところ、頓用では、著効を示す者は約1割、半数はそこそこの効果が出、約4割には全く効果が出なかった。

芍薬の主成分のペオニフロリン(paeoniflorin)も、甘草の主成分であるグリチルリチン(glycyrrhizin)も、共に配糖体であり、有効性の差の原因は、菌叢の差に違いないと考えられた。腸内菌はエネルギー源として糖を食べるわけで、資化した菌は選択的に増えるはずであり、与えているうちによく効くようになってくると考えた。そこで、無効例と多少は効いた人の一部に協力していただき、月経開始予定日の5〜7日前から投与を始めた。菌を増やし、酵素を誘導しようという企みなので、多量に与える必要はない。1日1包だけを与えた。薬効の評価は、従来の周期の痛みを5として、各周期の痛みを自主申告してもらった。その結果、予想どおり、少量ずつ前投与することによって、顕著な有効性を示したのである。

 以上示してきたように、漢方薬の配糖体は、腸内菌によって活性化されるプロドラッグである。漢方薬の効果に個人差がある一つの理由も、食の好みや腸内環境の差を反映した菌叢の個人差のためである。飲みはじめに便が緩みやすいのも、資化菌が選択的に増え、菌叢が変化したためであろう。また、抗菌剤と併用すると漢方薬の効果が落ちるのも、資化菌が死ぬためと考えられる。抗菌剤との安易な併用は止めたほうがよい。更に、漢方薬を投与し始めた時や、変方した時には、当然、その中の成分を利用できる資化菌が選択的に増えるわけで、菌叢の変化を生じ、腹が緩んだり痛んだりすることがあり、事前に服薬指導をしておくとよい。

 一方、こうした観点から見れば、漢方薬の成分を直接細胞や臓器に振りかけた薬理実験は、体内では起こりえないことを見ているわけで、非科学的だと言わざるをえない。そこで我々は、真の有効成分は血中を運ばれて作用点に届くと考え、経口投与後の血清を薬とみなして標的細胞に与える薬効解析系を考案した。「血清薬理学(serum pharmacology)」と呼ばれている方法論である。そうした方法を用いて、柴胡剤の線維芽細胞増殖抑制効果、甘草の肝細胞からのALTalanine transaminase)、AST(aspartate transaminase)漏出抑制効果、三黄瀉心湯の肝での脂肪酸合成抑制効果、補中益気湯の精子運動延長効果などを明らかにしてきている。

 

【アルカロイドの作用には消化管内のpHが重要】

 配糖体以外の大切な成分として、アルカロイド(alkaloid)がある。アルカリ性の成分で、少量で激しい作用を示すものも多い。アミノ酸から脱炭酸反応で生合成され、われわれの生理活性アミンと類似の構造や作用を持つため、激しい作用を出すのである。そもそも生薬や漢方薬が有効なのは、生理活性物質の過不足を生じて疾患になった時、われわれとよく似た生き様をしている動植物が、アミノ酸や糖などの共通の前駆体から、類似の代謝経路で合成した生理活性物質類似物質を得て、アゴニスト(agonist)として補い、あるいはアンタゴニスト(antagonist)として拮抗させて、利用しているからなのだろう。

 漢方薬に頻用されるしょうやくの中で、アルカロイドを主成分とするものに、麻黄と附子がある。麻黄に含まれるエフェドリン(ephedrine)は、アドレナリンとよく似た構造と作用を持っており、気管支拡張作用や昇圧作用を示す。葛根湯や麻黄湯などの風邪の初期に使われる方剤や、喘息の発作に使われる麻杏甘石湯、アレルギー性鼻炎に出ている小青龍湯などに含まれており、これらはいずれも麻黄剤と呼ばれる。

 アルカロイドの吸収には、pHが大きな役割をしている。アルカロイドは、酸性の胃に入るとイオン化する。そのため水に溶けやすく、脂質二重層からなる細胞膜を越せず、胃では吸収されにくい。麻黄湯を飲んでエフェドリンの血中濃度を追ったところ、予想通り、酸性では吸収が悪く、塩基性では血中濃度が上っていた。

 風邪の初期に葛根湯や麻黄湯を飲むときには、多量の湯やうどんの出し汁と一緒に与えるといいという口缺があるという。恐らく、体を温め、水分を補給することによって、保温や発汗、解熱を狙ったのだろう。しかし、この服用法は、エフェドリンの血中動態を考えても、意味があると思える。多量の湯を飲めば胃酸は薄まり、エフェドリンの吸収は増える。また、多量の液は胃を膨らませ、吸収面積を増やし、pHの高い十二指腸への輸送も速める。温かい飲料は、胃の血管を選択的に拡げ、血流を上げ、吸収を高める。

 一方、麻黄剤を使っていて、動悸や息切れなど、交感神経興奮症状か出ることがある。アドレナリン作動薬や抗コリン剤、甲状腺製剤、キサンチン誘導体などが併用されていないかを調べる必要がある。併用がなければ、エフェドリンの血中濃度を抑えるために、分服を薦めると良い。お湯に溶いた漢方薬を、必要に応じて少しずつお茶がわりに飲ませると、効果を保ちながら、有害作用を抑えることができる。

 もう一つの、アルカロイドが主成分である頻用生薬に、附子がある。エキス剤や調剤用の加工附子末は、アコニチン(aconitine)が熱に弱いことを利用し、オートクレーヴ処理しているので、毒性を余り気にすることはないが、本来は注意の必要な生薬であった。附子剤は、冷えて痛むような患者に投与することが多い。それだけに、常用者には高齢者が多く、無酸症・低酸症が少なくない。また、酸の分泌が低いために消化が悪く、胃薬を使う人が結構いるが、胃薬に制酸剤が含まれていることも多く、胃内phが更に上っている人も見受けられる。動悸や口唇の痺れなど附子の有害症状を疑わせる所見がある時には、投与量の調節や適切な服薬指導が必要となる。

 

【味や香りの無視できない作用】

 他の作用に、味や香りを介した作用がある。香りといえば、今、森林浴やアロマセラピー(aromatherapy)が発展しつつあるが、まだセラピーつまり疾患の治療というよりは、気分などへの影響といった印象が強い。しかし漢方では、“アロマセラピー”が行われている。例えば、術後の腸閉塞などに使われている大建中湯は、山椒、乾姜(生姜を蒸して干したもの)に、代謝を活性化する人参と、エネルギー源であり、還元麦芽糖を含み瀉下作用を持つ膠飴を加えたものである。いわば、夏ばてに飲む冷やし飴や、風邪気味の時の生姜湯のようなもので、芳香や辛味で消化活動を高め、食欲を上げるのである。なお、大建中湯は膠飴を含むので、α―グリコシダーゼ阻害剤のために腹部膨満を起こした糖尿病患者に与えると、消化できないままに下部消化管に届き、ますます症状を酷くする可能性もある。温湯に溶かし、十分に味や香りを働かせ、消化管の働きを先ず高めるよう、指導する必要がある。このように、味や香りが重要な薬効を出す以上、味や香りを共に隠すか共に着けることを前提とした二重盲検法を漢方薬の薬効評価に用いることは、とても科学的とは言い難い。漢方には漢方に相応しい研究方法を開発する必要が、臨床においてもあるのである。

 最近注目されているトピックスの一つに、消化管免疫がある。そのままでは吸収が困難だと考えられる多糖類などに、免疫増強作用が認められることから、消化管内でパイエル板などを介して免疫を高めているのか、あるいは、多少なりとも吸収されるのか、今大いに研究されているところである。

 まだ漢方の作用機序については解明できていないことも多い。ただ、漢方薬の特徴を踏まえた漢方らしい薬理研究が、今、大いに発展してきている。今後の更なる発展を期待したい。

(漢方フォーラム2002掲載より)

中野薬房ナチュラルインフォメーション