高齢化社会を象徴する尿の障害

 わが国はいま、世界でも有数の高齢化社会への道のりを歩んでいます。これは、見方を変えると、長生きできる人が増える”長寿化社会“を迎えるということでもあり、そのこと自体は喜ばしいことです。
 ところが、その一方では、加齢とともに健康面の必然ともいえる”老化“という現象にも私たちは向き合わざるを得ません。
 このことは、高齢化社会、長寿化社会のもう一つの現実的な側面であり、この点でいま、加齢や老化に伴う尿の悩みや障害を抱える中高年者や高齢者が増えているという点が社会的問題ともなりつつあります。
 特にこうした尿の悩みや障害をもつ中高年者や高齢者にとっては、生活行動面に支障をきたすばかりではなく、QOL(生活の質) の低下を余儀なくされるという点で、日常的に問題を抱えることになります。
 このことは、社会全体としても医療的、経済的な問題を大きくすることにもつながります。したがって、本格的な高齢化社会を迎える前に、老化に伴う必然的な要素としての”尿の障害“に対する医療的な対応が強く望まれるところです。
 特に、医療的な面から注目されている尿の様々な異常症状である排尿障害は、働き盛りの中高年男性や、家庭生活のかなめともなる中高年主婦層を悩ます問題として、わが国でも年々、注目度が高くなっています。
 ところが、排尿障害の問題は、健康障害としての要素だけでなく、病気や障害の部位が男女とも生殖器にからんでいるというデリケートな事情があるためか、潜在的に障害や悩みを抱えている人の数に比べ、実際に医療機関などを受診する人の数が1割程度にしか過ぎないという実態も明らかになりつつあります。

A排尿障害の原因
 ここで問題となる排尿障害とは、例えば,尿の回数が多くなる、尿漏れがする、尿が出にくい、尿が全く出ない、などのさまざまな症状を総称したものです。
 ちなみに尿は、腎臓でつくられ、いったん膀胱にためられます。これを蓄尿といいます。膀胱がいっぱいになったら、体外に排出されます。この場合は排尿といいます。
 この蓄尿と排尿のサイクルは基本的生理現象の一つであり、排尿障害とは、こうした生理現象に何らかの障害があることによって生じるものです。
 この排尿障害は、人口の高齢化とともに中高年者や高齢者のあいだで、急速に増えつつあります。その背景には、現代人の食生活の欧米化といった生活習慣の影響が色濃くみられます。これに、遺伝的要素や加齢に伴う身体的要因、ストレスなどによる精神的不安定などの要素も加わり、尿の異常症状で悩む人々が潜在的に増加しているといわれます。
 その典型ともいえるものが、男性では前立腺肥大症など、生殖腺である前立腺の病気であり、女性では尿失禁です。
B中高年男性に増える前立腺肥大症 わが国では前立腺肥大症に悩む50歳以上の男性は、3人に1人といわれています。
この前立腺肥大症は、「男性特有の病気」ともいわれるように、男性的でエネルギッシュな人に多く見られます (男性は40歳代前半から肥大化が進み、年を重ねるごとにその発症確率は高くなります)。こうした事例からも、前立腺が大きくなる背景として、男性ホルモンとの関係などが指摘されています。しかし、はっきりとした原因はまだわかっていません。
 前立腺が肥大すると、トイレが近い、すぐに尿がでない、残尿感がある、尿の切れが悪い、夜中に何度もトイレに起きるなど、生活面に支障をきたします。この前立腺肥大症は、そのまま放っておくと単に苦痛が増強されるだけでなく、腎機能が不良となって尿が全く出なくなり、尿毒症に至ります。さらに、インポテンスを招く恐れもあります。
 ちなみに、前立腺は男性特有の臓器で、膀胱の真下にあり、膀胱の出口を包み込むような形をしています。大きさは成人の場合でクルミぐらい、重さは15〜20g程度です。前立腺の分泌液は射精するときに精子と混じって出てきて、精子の動きを活発にし、受精しやすくするという大事なはたらきをします。
 この前立腺が肥大すると、その圧迫によって尿道が狭められ、排尿障害をきたすものです。

C中高年女性に多い尿失禁
 このような尿に関する悩みや障害は女性も抱えています。女性に多くみられるのは尿失禁です。尿失禁というのは、自分の意思と関係なく尿が漏れてしまうことで、この尿失禁の発症確率は30代で3割、40代で半数以上といわれています。さらに、年齢が高くなるにつれて、その割合は高くなっています。
 これまでは、症状の特殊性から、医療機関への受診をためらう女性が多かったとみられています。しかし、近年はQOLの向上に目が向けられるようになり、尿失禁の診断・治療技術も飛躍的に進歩しています。
尿漏れが気になる場合は、一人で悩まずに、一度は専門の泌尿器科を受診してみる必要があります。
 なお、婦人科では子宮の摘出手術を行った後などにも、排尿障害が起こります。この手術では排尿機能を支配する神経を傷つけてしまうため、手術後に尿意がない、尿が出にくいなどの排尿障害を起こすことがあります。

D腎臓やその他の臓器への影響
 男性の場合、前立腺肥大症が進んだ人では尿を出しきれないケースが多くなります。
これを残尿といいます。残尿が常に多量にあれば、ときには尿失禁になることもあります。この時期になると、膀胱が変形して縦に伸び、しかも内壁がギザギザになり、クリスマスツリーのようになってきます。
やがて膀胱にたまった尿が尿管へと逆流するようになり、腎臓の機能が低下し、放置すれば腎不全を起こしてきます。
 これは、尿管に逆流する尿の圧力によって、力学的に腎臓に影響がもたらされるものです。したがって、尿管や腎臓の中がふくらんでくる水尿管、水腎という長い過程を経て初めて腎不全に至ります。ただし、決して急激になるものではなく、前立腺肥大症は必ず腎不全を合併するというわけではありません。
 同じ前立腺の病気である前立腺がんも、前立腺肥大症と同じような排尿障害の症状を呈します。
 前立腺がんがさらに進行すると、ほかの臓器にも転移します。最も多くみられるのは、骨への転移で、骨盤、脊椎、肋
骨や手足の骨や頭蓋骨にもみられます。
そのころになると骨盤内のリンパ節に転移を起こしたり、肺や肝臓などの臓器にも転移します。
 このように、排尿障害を引き起こす前立腺の病気は、放置すると、他の臓器への影響もあるため、単に尿の不調ということだけでは済まないケースも出てきます。
 先にみた女性のケースのように、一度は専門の泌尿器科を受診して、自分がどのような状態にあるために、尿の障害が起こっているのかを、しっかりと確認しておくことが大切です。
一般的に、排尿障害は、男女とも中高年期以降に多く見かけられます。
 排尿障害には、その原因に応じて、男女それぞれに特有の病気と、性別に関係なく排尿障害がみられる病気があります。
男性特有のものとしては、付属生殖腺の前立腺に関わる病気が、排尿障害の原因となることが知られています。そのなかで最も多くみられるのは前立腺肥大症です。ほかに、前立腺炎、前立腺がんなども排尿障害の原因となります。
一方、女性の排尿障害として知られるのは、尿失禁(自分の意思と関係なく尿が漏れてしまうこと)です。また、女性の場合
は、子宮の摘出手術を受けた後などに排尿障害が起こることがあります。

@男性の排尿障害を招く病気
 男性の排尿障害の原因としては、男性特有の生殖器の病気である前立腺肥大症、前立腺炎、前立腺がんの三つが代表的なものです。ただ、なぜ前立腺の病気になるのかというはっきりとした原因は、いずれの病気においてもまだわかっていません。
一説には、前立腺が付属生殖腺であることから、テストステロンという男性ホルモンの変化と関係があるのではないかとされていますが、決定的なものではありません。
病気の原因がわからないということは、治療も、根本的な原因療法ではなく、病気になってからの対症療法が中心になります。

◆前立腺肥大症
 前立腺の病気の多くは、成人してから(特に老年期に) みられます。このうちで最も発症頻度の高いのが前立腺肥大症です。前立腺肥大症とは、膀胱のすぐ下にあるクルミほどの大きさの前立腺に、良性(非がん性) の増殖物ができて肥大する病気で、排尿が困難になる点が症状の特徴です。
 例えば、前立腺が肥大してくると尿道が徐々に圧迫され、尿の流れが妨げられるようになります(尿道閉塞)。前立腺肥大症になると、排尿した後も膀胱が完全に空にはなりません。その結果、尿が膀胱内に長くとどまるため、腎臓結石ができやすくなり、尿路感染症にもかかりやすくなります。
 閉塞状態が長びけば、腎臓に損傷を与えるおそれも出てきます。前立腺肥大症そのものは良性の病気ですが、注意すべきは前立腺がんを伴う場合があることです。
 前立腺肥大症は年齢とともに増え、特に50歳以上の高齢者に多くみられます。この病気のはっきりした原因はわかっていませんが、テストステロンという男性ホルモンの変化と関係があると考えられています
◆前立腺炎
 前立腺炎とは、前立腺に痛みと腫れが生じる病気のことです。前立腺炎の原因は明らかではありませんが、細菌性の感染による異常が、尿路や血流から前立腺に広がることで、前立腺が炎症を起こす場合があります。細菌の感染による前立腺炎は、ゆっくりと発症して再発を起こすこともあれば (慢性細菌性前立腺炎)、急速に進行することもあります(急性細菌性前立腺炎)。また、希にですが、カビ、ウイルス、原虫による感染が前立腺炎を引き起こすこともあります。
 前立腺炎の症状の多くは、膀胱や骨盤の筋肉のけいれんで起こります。前立腺炎にかかると腰などが痛みますが、陰茎 (ペニス) や精巣が痛むこともよくあります。
 また、排尿の回数が増えて急に排尿したくなったり、排尿するときに痛みやとリヒリ感があったりします。
 前立腺炎の診断では、直腸から触診すると、前立腺が腫れていて、触れると痛むことが特徴です。

◆前立腺がん
 前立腺がんとは、前立腺の組織内に悪性(がん) 細胞が認められる男性特有の病気です。外腺 (前立腺の外側の部分) より発生すると考えられており、その95%は腺がんです。初期には特有な症状はなく直腸指診のみで発見されます。
 前立腺がんは、主に高齢の男性にみられます。初期にはほとんど症状がありませんが、加齢とともに前立腺は大きくなり尿道や膀胱の出口を塞ぎます。がんが大きくなって尿道が圧迫されると、尿が出にくい、尿の回数が多い、排尿後に尿が残った感じがする、夜間の尿の回数が多いなどといった前立腺肥大症と同じ症状が現れます。また、性機能に支障をきたしたりすることもあります。
 前立腺がんの原因は、遺伝子の異常によるものが大半といわれており、そのほか、加齢と男性ホルモンの異常なども影響要因とみられるものの、いまだにその正確な発生の原因は明らかではありません。そのため、効果的な予防法もまだ見つかっていないのが現状です。
 なお、一部の研究では、肉やミルクなど脂肪分が多く含まれている食事を多く摂取することにより、前立腺がんの発生が増えると考えられています。一方、穀類や豆類など繊維を多く含む食事は、前立腺がんの発生を抑える効果があるとみられています。
 ちなみに前立腺がんは、欧米では男性のがん死亡例の約20%を占める頻度の高いがんです。それに対して、わが国では約3・5%と比較的頻度は少なかったのですが、近年になり発生頻度は急止昇を遂げており、最近の統計では過去5年間に1.7倍も増加しています。
(コラム)
【前立腺がん急増の背景】
 前立腺がんは、前立腺肥大症と並んで、典型的な先進国における年齢依存型疾患ともいわれ、食事の欧米化を背景に、近年のわが国における高齢人口の増加の結果とも考えられています。
 総患者数はアメリカの1了10程度ですが、死亡数増加率は、すべてのがんの中で最も高く、近い将来、胃がんを抜いて肺がん、大腸がん、肝がんの次に多いがんになるとも予想されています。なお、わが国の男性が1年間に前立腺がんにかかる割合は現在、対人□10万人当たり15人程度で(2003年現在)、年齢別では、50歳以後で発症頻度が高くなっています。

A女性の排尿障害を招く病気
 女性にみられる排尿障害の多くは、尿失禁によるものです。尿失禁とは、本人の意思によらず尿が漏れてしまうもので、誰にも起こりうる身近な病気です。ただし、尿失禁は女性に多く、軽いものまで含めると約4割の人が経験するといわれます。尿が漏れるのは不快なものですし、外出がおっくうになるなどQOLも低下します。
 尿失禁は泌尿器のトラブルによって起きることが多いのですが、排尿をコントロールする脳や神経の障害、高齢などが原因で起こることもあります。なお、尿失禁は、原因によっていくつかのタイプに分けられます。

◆腹圧性尿失禁
 腹庄性尿失禁とは、くしゃみやせき、大声で笑う、重い荷物を持ち上げる、運動をするなど、お腹に力が入ったときに起こるのが特徴の尿漏れです。女性の尿失禁の約7割を占めています。出産回数の多い女性ほどかかりやすい傾向にあり、ほとんどの女性がこの腹庄怪尿失禁のタイプです。
 この腹庄性尿失禁は、尿失禁の中で最も多いもので、尿失禁全体の約7割を占めています。まれに男性にもみられますが、女性特有のものといってよいでしょう。
 尿失禁が女性に多いのは、もともと女性のからだが、尿の漏れやすい構造になっているためです。女性は男性に比べて尿道が短く、どうしても尿が漏れやすくなります。
さらに、泌尿器をはじめ骨盤内の臓器を支えている骨盤底筋群と呼ばれる筋肉がゆるみやすい構造になっているため、これに腹圧がかかると、尿道がさらに下垂し、尿が漏れてしまうのです。 とりわけ、加齢、肥満、出産は骨盤底筋群を弱める三大要因とされています。ですから、30代半ば過ぎになると腹庄性尿失禁になる割合が急に高くなり、2人に1人は尿失禁を経験するともいわれています。

◆切迫性尿失禁
 切迫性尿失禁とは、膀胱自体が過剰に緊張して収縮するために、急に尿意をもよおし、トイレに行くまでに漏れてしまう病気です。男女を問わず70代以降の高齢者に多くみられますが、特に50歳代以降の女性がなりやすいといわれます。また、脳卒中や脊髄の損傷などで神経が障害を受けたり、膀胱炎などで知覚神経が過敏になっているときなどにも起きます。

 
◆溢流性尿失禁(いつりゅうせいにょうしっきん)
 膀胱に尿がたまり過ぎて、あふれてしまう病気で、強い尿意や切迫感はなく、尿は少しずつ持続的に漏れます。前立腺肥大症など泌尿器の病気が原因になっていることが多く、男性に多くみられます。ただ、女性でも、子宮がんなどの手術で骨盤内の神経を切除した後に起きることもあります。

B排尿障害を起こすその他の病気
 排尿障害は、このほか、性別に関係なく起こる病気によってもみられます。例えば、膀胱炎、尿道炎、尿路結石、神経因性膀脱、膀胱頸部硬化症、尿道狭窄、神経性頻頻尿などでも排尿障害が起こります。

参考資料  医薬、健康ニュース社 排尿障害の謎を解くより抜粋

排尿障害について

中野薬房ナチュラルインフォメーション