癌と食養生(2)
 2.諸外国の食養生

 桜沢如一とほぼ同時代に生きたドイツ生まれで、後にヒットラーの台頭によりアメリカへの移民を余儀なくされた「マックス・ゲルソン(1881−1959)」も、有機農法による野菜と果物を中心とした食事療法の元祖としてよく知られています。彼も桜沢と同様、最初は自分自身の病気(偏頭痛)を治す為にこの療法を創成しました。当時は不治の病であった結核から、あのシュバイツアーの妻を奇跡的に回復させ、同時にシュバイツアーの糖尿病のコントロールにも成功して天才と賛美されました。
 彼の理論によると、癌は栄養不足と化学物質による水や空気等の環境汚染が原因で、身体の自然免疫力と治癒力を修復させ、全身の生理現象の均衡を図ることが重要とされています。その為には、

 @有害物質を排除する肝臓機能の強化
 Aカリウムを重視し、不足させない
 B新鮮な野菜と果物を中心とした食事


を基本とし、フリーラジカルを捉えるビタミンCやβ−カロチン等抗酸化剤を多量に摂取することを勧めています。又、肝臓や甲状腺の抽出物、膵臓酵素、ヨウ化カリウムといった栄養補給剤も投与しています。一方動物性の蛋白質は最小限に抑えられ、肉は全く許しておりません。
 この療法の特徴の一つとして、亜麻仁油が採り入れられていますが、その働きがビタミンAの体内輸送を助けて、かつ血液の粘性を下げる必須脂肪酸に富んでいるので、癌の転移性を防ぐと説明しています。最近の研究でもビタミンAは、Cと同様に多量摂取が癌の成長を全体的に停止させたか遅くしたとのデータが提供されていますが、脂質に溶けるビタミン類(A、D、E、K)は過剰に摂取すると体内に蓄積されるとの理由から、一般医学では不必要であり、危険でもあると言われています。
 さらにコーヒーやお茶を飲むことを原則的に禁止していますが、重要な解毒法としてコーヒー浣腸が行われています。ゲルソンは、急激な解毒法を実施した患者の回復兆候が見られないのは、癌そのものが原因ではなく急速に分解されていく腫瘍の固まりから出る毒性の分解物を肝臓が吸収出来ないからと考えました。コーヒー浣腸は直腸から取り入れられたカフェインが肝臓を活発化し、胆汁の分泌を促進して有毒物の分解を早めると信じられ、かなり昔から多くの療法の中で使われてきました。そして吐き気が消失して食欲が出て来たとか、痛みも和らいだとの報告も多くありますが、大腸炎を併発する場合があり、やり方には十分な注意が必要です。尚、解毒を速やかに行う為に、経口又は浣腸としてひまし油を摂ることも行われています。
 以上のようにこの療法は多面的で、素人が忠実に実行することは非常に困難ですが、白血病を除くほとんどすべての癌に反応するといわれ、ゲルソン研究所や提携している病院には日本人も多く訪れているそうです。
 ゲルソン療法と共通点の多い療法に「ウイリアム・ドナルド・ケリー」によるものがあります。彼は1980年に肺癌末期の俳優スティーブ・マックイーンの治療に係わって、広く知られるようになりました。私も大好きだったあの「大脱走」のマックイーンは、最後まで煙草は吸うし、ファースト・フードや菓子類も手放さない等ケリーの教えをあまり守らなかったそうですが、部分的に実行した結果、鎮痛剤の必要性がなくなったり、体重も増加する等の効果があったと言われています。いずれにしてもこれを契機にケリーと一般医学組織との対立は決定的なものになりました。
 ケリーの理論は、癌の根本原因を身体の蛋白代謝機能が正常に活動しないことにあるとし、これには膵臓の酵素の欠陥が関係するとしています。つまり膵臓の蛋白質消化酵素の活性は、抗腫瘍作用の役割を果たしていると信じ、又元来膵臓は消化酵素を小腸に直接分泌しますが、ケリーは血管内にも分泌すると主張し、癌の増殖因子も防御因子も共に血液によって体内を巡ると考えた訳です。そしてさらにミネラル代謝の不均衡が免疫系を破壊してしまうと断定しています。さらに解毒によって除去される老廃物の多くは酵素阻害剤であることから、浣腸は免疫系の活性化にも重要であるとして、ゲルソンと同じように毎日少なくとも1回のコーヒー浣腸を実行するよう勧めています。
 彼の療法の特徴は、やはり有機農法による野菜と果物を基本として、その消化に酵素が必要とし、蛋白質の摂取量を制限していることです。又、代謝を10種類に分類して、各々異なったタイプの人に合う食事プログラムが組まれています。そこには膵臓酵素やビタミン、ミネラルも処方され、さらにカイロプラティツクや指圧等も組み込まれ、このような総合的な療法をケリー自身は「代謝生態学」と呼んでいます。

 桜沢、ゲルソンに並び称されるオランダの「コーネリス・モアマン(1893−1988)」は、食物繊維の多い食事と、ビタミンとミネラルを適切に補うことを主張し、まさに栄養剤の意義を確立した元祖と言われています。彼の癌に対する考え方は潜在的ウイルス説で、長期間にわたる悪い栄養状態の結果発病すると考えました。ウイルス説は彼が誕生する100年も前に発表されており、当時既に説得力に欠けるものであったと思われますが、今日では彼の食養生法はひとつの効果的な方法として認識され、特にオランダでは広く知られています。彼もゲルソンやケリー同様、人生の大半を一般医学の権力組織から迫害を受けて過ごしました。
 モアマンの食養生法もゲルソンやケリーと同じように、有機農法による野菜と果物が基本で、水や他の飲料の代わりに野菜や果物のジュースを勧めています。穀物はあらゆるものについて全粒主義で、桜沢の一物全体と同じ考え方です。他の療法と比べて特徴的なことは、より多くの脂肪の摂取を認めていることで、バターやチーズも許可していますが、一方厳格に禁止しているものも多くあり、例えばゲルソン療法では主食になっているジャガイモや豆類(グリーンピースを除く)などほとんどものがその中に入っており、私自身理解に苦しむ点も多くあります。
 以上の他にもいろいろな人達の食養生法がありますが、専門家の見解には互いに矛盾する点もあり、素人が単独で厳密に実行するのは難しいと思います。大切なことは、若い頃より日常の食事に出来るだけ気を配り、その僅かな差が中年以降の健康に大きな差をつけるということを自覚すべきと思います。食物には本来いろいろな作用があり、そして当然大きな個人差もあります。又ほとんどの人にとって何か体に合わない食物が必ずあるはずです。それは単品であったり、何か他の物といっしょに食べたり飲んだりした時のみ発生したりさまざまです。要は自分の健康は自分で守るために、自分の体にとってそれは何かと気付くことです。あとは「バランスよく食べる」の一言に尽きますが、これが実に難しいと思います。突き詰めるとなるべく多くの食材を炭水化物を中心にして、蛋白質を‘‘ほどほどに”、そして脂肪は極く少量摂ればよく、勿論野菜や果物は欠かしてほならないということになると思われます。  (完)

                     松浦漢方 (薬事学術部長 舟橋敏彦)
    

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