役立つ漢方薬と食養生

6.身体によい食べ物とは?
6.身体によい食べ物とは?
 
 東洋医学に「食は命なり」という言葉があり、食事こそ生命を養い、健康を保つ基盤であるといっています。
 まさに、そのとおりで、正しい食生活があってこそ健康が保たれるのはいうまでもありませんが、東洋古来の食生活の知恵は、現在のカロリー計算型の西洋式栄養学とは、だいぶ考え方が違っているのです。
 第2次世界大戦の終戦後の混乱から抜け出して、経済的に余裕ができ始めた頃から、わが国では高たんぱく、高カロリー食がもてはやされ、学校給食や病院の食事、社員食堂の料理などにいたるまで、西洋式栄養学での食生活の一般化が急速に普及し、それまでの日本人伝来の食生活を、まったく過去のものにしてしまいました。
 この間、年数にすれば約30年ほどの短い期間での急激な変化です。
 しかし、それ以前の日本人が何千年もの間生き延びてきた食生活の中心は、玄米菜食で代表される伝統的なものだったことはいうまでもありません。
 米や麦、ひえ、粟などの穀類、雑穀を中心に、それほど多くない品種の野菜と、川や池で穫れた淡水魚、近くの海の小魚や貝、海草などがおもな食べ物でした。
 何千年もの間、そのような食物で、狭い島国のなかで過ごしてきた日本人の身体は、当然ながら、それらの馴れ親しんできた食物の影響をうけているわけです。
 日本人の腸の長さが、他の肉食民族よりもかなり長いことは、よく知られており、また、同じ東洋人である中国人や東南アジア諸民族よりも長いことは、やはり昔からの日本人独自の食生活の結果と考えない訳には行きません。
 その腸の長さが六頭身といわれる胴の長いプロポーションを作り出し、八頭身の西洋人の短い胴と長い脚にあこがれさせているのですが、先祖伝来の身体をにわかに変身させることは至難の業です。
 いっぽう、その長い腸のままで、ある日突然といってよいほど急速に、今までの日本食を、洋風の食事に転換してしまったのが現在の日本人の食卓の風景といえるでしょう。
しかも、その洋風の食事のモデルが、フルコーススタイルの宴会のご馳走が原形になっているだけに、味覚本位で高カロリーの食事が多く、食べれば食べるほど、健康とかけ離れたものになってくるのは当然といえます。
特に、最近の若い人たちの場合には、生まれるとすぐから、牛の乳である粉ミルクと、洋風が基本の食事で育てられるわけですから、それが当たり前と思っていますが、それを受け入れる身体の方では困り切っているに違いありません。
明治、大正、昭和の初期までの親たちの身体では、未だかって体験したことのない高たんばく、高カロリーの食品、動物性の脂肪、農薬、食品添加物などが大量に入ってくるのですから、これを内部で処理するのは大変な仕事になります。
 下痢をするので牛乳を飲めないという人をよく見かけますが、このような人は前記の内部処理がうまくできない人といえるでしょう。
 この場合、身体は、牛乳というその人にとって消化困難な異物を体内に入れてもらって困るという赤信号を、下痢の形で表現しているわけです。
 近年急速に増えているアトピー性皮膚炎とか、各種のアレルギー性疾患、慢性の疾患は、そのあらわれる部位、症状はさまざまでも、病気の大きな遠因として、最近の二世代くらいの間での食物と環境の変化があることは否定できません。
 現在何かの病気で悩んでいる方、健康に留意している方のいずれにせよ、以下に述べる東洋医学での「食養生」に心がけて下さい。
 「食養生」に関しては前述の「薬食同源」または「医食同源」のほかに、「身土不二(しんどふじ)」二一物全体(いちぶつぜんたい)」、「陰陽補潟(いんようほしゃ)」などの考えがあります。
◎「身土不二(しんどふじ)」とは「その人の生まれ育った国や地方でできた食べ物が、その人の身体に最もふさわしい」という意味。
 地球上のどの民族にも固有の民族食があり、その民族食を何百年も食べ続けて、その民族が栄えてゆくならば、その食体系は正しいことになります。
 しかし、現実の問題として、食糧を輸入に頼る日本ではほとんどのものが外国産のものになっていますが、できる範囲で地元優先を心がけたいものです。
◎「一物全体(いちぶつぜんたい)
 ひとつの食べ物は、食べられる部分を全部食べるのがよいという意味です。
 大根など、根菜類なら根だけでなく葉までも全部食べること。
経済的な理由で、残さないというのではなく、その食べ物の中のビタミンや、カルシュウムなどのミネラル、微量栄養素のすべてを利用しようとするもの。
魚であれば、小魚など、頭から尾まで丸ごと食べられる種類のものか、鮭のように頭は昆布巻に使ったり、骨はダシをとったり、焼いて食べたりというように、大きな魚でも頭から尾まで一匹全部を食べるようにするのです。
大きな魚の一部分である切り身だけを買って食べ続けるのは、栄養のバランスを欠く食ベ方で感心したことではありません。
一般に、特定の食べ物だけに片寄った食べ方をする「偏食」がいけないことは、苦から生活の知恵の一つとしてよくいわれてきたことですが、この「一物全体」 の考えはこれを
さらに進め、個々の食物の中での偏食を戒めたものでしょう。
 牛肉、豚肉なども同様、美味しい部分だけを食べ続けることは、動物性脂肪の取りすぎになることは当然でしょう。
 西洋の農家のように、牛を肉、ハム、チーズ、バター、ミルクと加工して自家消費するならば、「一物全体」といえます。
 日本人の食べる「米」では、ビタミン、ミネラル、食物繊維等を含む「胚芽」のついている「玄米食」までは実行できないにしても、胚芽米を使うのがベターでしょう。
◎「陰陽補潟 (いんようほしゃ)」
 漢方薬を選ぶ場合に用いる「陰陽虚実」 の考え方とは、ややニュアンスの違いがありますが、欠けているものを補い、陰陽のバランスにしたがった食事をとる点では、漢方薬の考えと一致しているものです。
 暖冷房が普及していなかった昔、といってもつい二、三十年前まで、私たちは暑い夏(陽)には陰性のトマトや生野菜などを食べ、寒い冬(陰) になると身体の温まる鍋物(陽) を食べていました。
 冬場に、生野菜やアイスクリームを食べるとか、冷やしたビールを飲むことは、まずありませんでした。
 それが今では、すっかり混乱してしまって、季節の感覚が薄れ、夏冬を問わず、冷蔵庫から出した零度前後の温度の飲食物を常に口にしていますから、全体的に冷え症、貧血の人が増え、血行の悪い人が多くなっています。
 年配の方は記憶しているかと思いますが、昔は西瓜を井戸水の中に入れて何時聞か冷やしてから、「冷たい!・おいしい!」といって食べたものです。
 その西瓜の温度は当然、今も昔も井戸水の温度とおなじ15℃であったはずですから、現在の冷蔵庫で冷やした0℃〜5℃前後の食品を、そのまま飲んだり食べたりすることは10℃近くもの冷たいものを身体に入れることになります。
 毎日の気温でも10℃さがれば、大変寒く感じるのですから、その冷たい飲食物を突然流し込まれる身体はプルプル震えあがるのは当然でしょう。
 足腰の痛みや、冷えなどで悩んでいる人は、ぜひ注意してほしいものです。